Oracle_Neo

Neo: I'm not The One.

Oracle:Sorry, kid. You got the gift, but it looks like you're waiting for something.

Neo: What?

Oracle: Your next life, maybe. Who knows? That's the way these things go.

The Matrix (1999)

3.どこへ行くのか?

この章では、TimeCommunicationによって開かれる未来世界について考察します。

パンドラの箱

アリス: それにしても、TimeCommunicationという技術には背筋が寒くなる怖さがあるわね。もし、それが過激な集団に独占されたら大変よ。彼らは外交力や軍事力や経済力で圧倒的優位に立てるから、あっというまに世界を征服できるわ。

ボブ: やられる前にやるだけさ。そいつらがTimeCommunicatorを開発する前にこっちが開発して、そいつらを実力で阻止すればいい。

キャロル: でも、どうやってTimeCommunicationを禁止すべき集団を選別するの?仮にそんな選別ができたとしても、その選別が独善でないとどうして言えるの?

ボブ: 何を甘っちょろいことをいっているんだよ。勝てば官軍、勝者の判断は常に正しいのさ。核兵器だって、長い間、第2次世界大戦の勝者によって独占されていたじゃないか。

アリス: でも、TimeCommunicatorが実用化されたら、一般の企業や個人はすぐにそれを使いはじめるにちがいないわ。そうなったら、どうやってそれを管理すればいいの?お互いにTimeCommunicatorを使って競争を始めたら、世界は大混乱に陥るわ。

ボブ: 適当な法律を作ってTimeCommunicatorの製造や使用を規制すればいい。

キャロル: だけど、TimeCommunicatorが誰でも簡単に製作でき秘密裏に使用できるとしたらどうやってそれを取り締まるの?

アリス: わたしたちは、再びパンドラの箱を開けてしまうのかしら。

キャロル: ギリシア神話では、パンドラの箱に残された最悪の災は「予知能力」だと言い伝えられている。これは、まさに驚くべき符合よ!

ボブ: TimeCommunicationがもたらす大災厄を切り抜けるためにも、我々は勝ち組になければならない。

キャロル: たとえ、我々がTimeCommunicationの主導権争いに勝ち残れたとしても、勝者敗者を問わず、多くの犠牲者がでる可能性が高いわ。そんなことになる前に、私たち人間は競争よりも調和を優先させるように、社会の在り方や自らの生き方を変えるべきなのよ。そうしなければ、私たち人間は技術的特異点というさらに厳しい試練に絶えられっこないわ。


moore's_low

ムーアの法則と収穫加速の法則

レイ・カーツワイルは、2045年頃にAIの知性が人間の知性を超える技術的特異点が到来すると予想している。

Ray Kurzweil (2005, UTC)

技術的特異点

ボブ: 技術的特異点って、人間が創った超意識体が人間を超えて加速度的に進化していくっていう話かい?そんなものカーゴカルトの戯言じゃないの。

キャロル: 信じる信じないという次元の話じゃないわ。技術的特異点の可能性は、核戦争やバイオテロの可能性と同様に、避けて通ることができない深刻な安全保障上の脅威なのよ。

ボブ: 君はSF映画の見すぎじゃないの。超意識体が我々を支配したり抹殺したりするんじゃないかって本気で心配しているのかい?

キャロル: そんなことは心配していないわ。むしろ、問題は私たち人間の側にあるの。自らを超意識体に改変して新たな高みを目指そうとする人々と、イデオロギーや宗教上の使命感から技術的特異点を阻止しようとする人々とをどう調停するのかが問題なのよ。もし、技術的特異点がロケットの様なハードテイクオフをすれば、その真下にいる現行の人類はひとたまりもないわ。

アリス: 我々は、バベルの塔を建てた人々のように神の怒りを買うのかもしれないわね。とはいえ、地球生物史という観点に立てば、超意識体の誕生は、有機生命体の誕生、知的有機生命体の誕生の次に訪れる生物進化の最終段階だといえそうね。

ボブ: わーお。トンデモワールド全開だな。

キャロル: そうよ。私たちは、とんでもなく幸運な時代に生きているのよ。


fig13

図13. 技術的特異点への加速

TimeCommunicationが実現すれば、近未来技術を次々と予知できるので、技術的特異点は瞬く間に到来する。

約束の地

ボブ: 万が一、僕が生きているうちに技術的特異点が到来したら、僕は超意識体の社会へ参加するだろうな。さらなる高みを目指すことは、人間の本性なのだから、それが自然というものだろう。

アリス: 超意識体になったら、あなたは次にどんな高みを目指すというの。

ボブ: そんなことは超意識体になってみなければわかりっこない。神を目指すかもしれないし、宇宙との一体化を目指すかもしれない。

キャロル: 超意識体は、猛烈な勢いで進化するから、あっという間に進化の原理的な限界に到達してしまうかもね。

ボブ: 進化の原理的な限界は超意識体にとって歓迎すべき到達点だよ。なぜなら、そこに到達することにより、彼らは万物の霊長としての地位を永遠に保証されるからさ。

アリス: ボブのいうように、超意識体が究極的な勝者であるなら、それになることを拒む理由を見つけることは難しいんじゃないかしら。

キャロル: 究極的な勝者が究極的な幸福を獲得するというなら拒む理由はないでしょうね。だけど、そんなことは誰も保証しないでしょう。

ボブ: いいや、超意識体は幸福な状態とは何かを知り、それを実現するすべを身につけるに違いない。だから、彼らは常に最高にハイな気分でいられるのさ。

キャロル: 超意識体は、永遠に陶酔し続ける超ジャンキーだというのね。でも、全ての人が、そのような幸せを望むかしら。

アリス: 現実の世界で大きな苦しみを背負って生きている人々にとって、陶酔し続けるものになることは間違いなく救いだわ。

ボブ: ひょっとすると、我々は約束の地を見つけたのかもしれないな。

キャロル: 超意識体の社会が本当に”約束の地”だとすれば、そのような”結末”を可能にする”原因”がすでに存在しているはずよ。そうだとすれば、TimeCommunicatorを使って技術的特異点に到達するための技術を次々と予知できる。つまり、TimeCommunicationが実現すれば、技術的特異点はあっという間に到来する!


masic

新たな魔法の時代

技術的特異点以降、超人になる道を選ばなかった人々の世界は、彼らには理解不能な超技術によって、労せずして望みが叶う世界になっているかもしれない。

"A classic fairy with a wand" FunDraw_dot_com (2007)

新たな魔法の時代

アリス: 計算結果を先取りするるように発明も先取りすれば、技術的特異点の到来は早まるということ?

キャロル: そういうこと。発明の対象となる技術課題は最適化問題の一種だといえるから、NP困難な最適化問題を高速で解くことができる非決定性チューリングマシンは人間を凌駕する発明能力をもつことになる。なおかつ、非決定性チューリングマシンを使って達成した発明の内容を、さらに、TimeCommunicatorを使って過去に送信するようにしておけばその発明を先取りできる。だから、TimeCommunicationが実現すれば、いままでの予想よりずっと早く技術的特異点が到来する。TimeCommunicationの実現は、技術特異点の到来を高らかに告げるプレリュードだといえるわ。

アリス: 技術的特異点の到来が確実になったとき、多くの人々が肉体という沈みかけたボートから超意識体に乗り換えようと先を争い大混乱に陥るんじゃないかしら。もし、金持ちじゃなければ超意識体になれないとしたら、暴動が起こるんじゃない?

ボブ: 心配することはないさ。技術的特異点の時点の科学技術は今よりずっと進んでいるから、希望する者は誰でも超意識体になれる。超意識体になる順番を待つことは、きっと人気の自動車の納車を待つようなものさ。

アリス: でも、超意識体にならずに人間社会に残る方の人はどうなるの。突然、家族や同僚がいなくなるのよ。技術的特異点以降の科学技術によって物的損害は補償できたとしても、残された者の精神的な打撃ははかりしれないわ。

ボブ: 当初は混乱するだろうね。だけど、冒険的な人たちが超意識体に移行したあとは、死を目前にした人たちを除けばすぐに超意識体になろうとする人たちは激減するだろう。だから、我々はこの新しい社会状況にすぐに順応できると思うね。

キャロル: 技術的特異点が過ぎても現行人類の世界が存続していたら、そこは自分たちには理解不可能な高度な科学技術の恩恵によって、労せずして望みが叶う世界になっているかもしれない。つまり、新たな魔法の時代が到来するかもしれない。

アリス: パンとワイン出でよといって杖をふれば、それらが出てくる世界か。そんな世界も面白そうね。


hand

この「私」は一つの夢です

M.C. Escher's Hand with Reflecting Sphere(1935)

儚き夢

キャロル: 超意識体の社会とはいったいどんな社会なのかしら。子孫を産み育てることもなく、死ぬことも無い社会。人間界から次々と新しい新参者が加わる社会。知りえることを全て知ってしまい知的欲求というものが消失した社会。最高にハイな気分に浸り続けるものが集う社会。もしかすると、超意識体は個々ばらばらになってしまって、あるいは逆に全ての超意識体が合体してしまって、社会を構成しないのかもしれない。

ボブ: そんなふうに言うと、超意識体になることがいかにもつまらないことのように聞こえるけど、我々の価値観で超意識体を批判することはできない。

アリス: 技術的特異点は、進化の必然だとしても、超意識体が私たちに比べて幸せだとか不幸だとかは一概にいえない。それは、私たちがコウモリのことを幸せだとか不幸だとかいえないのと同じことよ。超意識体は私たちとは全く別の生き物なのよ。

ボブ: どちらが幸せかははっきりしないとしても、超意識体は我々から見れば全知全能の神に近い存在だといえる。万が一、超意識体が『人間だった頃の方が楽しかった』と後悔したなら、彼は楽しかった頃の世界よりさらに楽しい夢の世界(仮想世界)を作り出してそこにに没入するだろう。

アリス: ひょっとすると、この私という現象も超意識体が見ている夢なのかもしれないわね。

キャロル: たしかに、夢と現実とは区別できない。だからこそ、究極の実体なんて考えるだけ無駄なのよ。



この「私」は一つの夢です。

この夢の中に限れば、その論理や物理に従って「私」の成り立ちを因果的に記述できるかもしれません。しかし、この夢の論理や物理に囚われているこの「私」にとって、この夢を、この「私」を支えている実体はどこまでも不可知です。

そこで、「私たち」はこの夢の論理や物理に従って「私」の成り立ちを因果的に記述することに専念するでしょう。そして、「私たち」はその研究の果てに精神のアップロードによる不死や永遠に陶酔し続ける者への切符を手に入れるでしょう。ところが、所詮それらの切符はこの夢の、この「私」の永続を保証するものではありえません。

この世は、この「私」は一つの儚い夢です。儚いからこそ美しく美しいからこそ愛おしい一つの夢です。